乾 正明 詩集

「春なには」
春は よどんで寝屋川の
流るともなき たゆたひに
戯れ遊ぶ ひと群らの
あはれ 名残りのユリカモメ

ビルの狭間の 春ひとつ
ムラサキカタバミ イヌフグリ
射すや射さずの日を受けて
咲きてみせたる 花の色

卯月も半ば 通り抜け
花は重たき 八重桜
行き交ふ人に 雪洞に
川面にゆるき 風吹きて

「五月若葉」
五月若葉に日の光
きらめく緑 賞ず人の
目にふれもせで病ら葉の
ひそかに散り」し昼下がり

五月若葉は窓縁りの
つましき緑 ヒメリンゴ
あやにかなしき一鉢は
去年の夜市の遠き愛

五月若葉の日和り雨
滴る露の下陰に
ものこそ言はねキジバトの
慈しみあふ 一つがひ

「届かざる」
届かざる 想ひをこめて
葦の間に 石を投げけり
水の輪の 広ごりゆきて
さざ波の 立てるあたりを
雲一つ しづ心なく
その影の 千々に乱るも
知らぬげに 流れゆきたる
さながらに 我が恋ふ人の
つれなきを 知らしむるごと